天の華・地の風/江森備 を読む

シーザーシリーズの感想を書こうとしたけど、読んでから時間が空いてしまったので後回しです。

やはり原点に戻り天の華地の風について。

 

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まず、この小説は読者に向けて書かれたものではなく、江森備が自分の魂を小説として表現したものだと思う。

なので決して読者に優しい甘い物語ではない。クライマックスに向けて読者は非常に辛い物語を読み進めなくてはいけない。

しかし一度読み始め、江森備の魂に触れたなら、我々はただ最後まで見届けるしかない。

江森備の魂の叫びを真っすぐ受け止めるだけなのだ。

 

この作品は三国志を縦糸に真実の愛を横糸として織り上げられた見事な蜀錦である。

うまく史実と創作を織り交ぜて描かれている。

そして因果応報の物語である。

他人を安易に殺めてはいけないし手にかける場合は其れ相応の理由が必要だという江森備の考えが根底にある(これは江森備の他の作品にもいえることだが)

止むに止まれず相手を殺めてしまった場合でも、その報いを受けなくてはならない。

主人公孔明は自分を愛してくれた周瑜や知性を認めてくれた劉備を毒殺してしまう。

その報いとして周瑜によく似た姜維劉備の息子である劉禅の策略によって、珍毒を飲まされる。

 

ただ、そこで毒を飲まされて死んで終わりではない。

この作品の主題は実はここからである。

毒によって周瑜が愛した身体も劉備が認めた知性も失い廃人のようになってしまう。

あの月のごとき美貌も、千里の彼方の敵を倒す知力も全て毒により奪われてしまう。

 

そのような何もできない何の力も持たない存在になってしまっても、魏延に最期まで守られて死ぬのだ。

物語の始まりでは愛を知らない孤独な魂の孔明だったが、ラストでは大きく深い愛を手に入れたのだ。

 

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今回はものすごく堅い文章になってしまった。

次回以降は別の視点から天の華地の風を語ろうと思います。